情報処理安全確保支援士(登録セキスぺ)の特徴と勉強方法

IT

現代社会において、サイバー攻撃や情報漏洩事件の脅威から企業や組織を守るためには、情報セキュリティ対策が欠かせません。その中で、「情報処理安全確保支援士(略称:登録セキスぺ)」という国家資格が注目されています。
しかし、情報処理安全確保支援士は、弁護士・税理士・社労士などの他の「士業」と比べて、その認知度は高いとは言えません。セキュリティの重要性が叫ばれる中、この資格がなぜ重要なのか、そしてどのような魅力があるのかを見ていきましょう。さらに、資格を取得することで広がるキャリアパスや実際の業務の具体例にも触れていきます。


情報処理安全確保支援士とは?

定義と概要

情報処理安全確保支援士 (英:Registered Information Security Specialist 略称:RISS)(以下、安全確保支援士と表記)は、情報セキュリティ分野の国家資格者です。この資格を持つ者は、企業や組織の情報資産を守るため、セキュリティの専門知識を駆使してリスクを管理し、脅威に対応することが求められます。

法的背景

安全確保支援士は、2016年の「改正情報処理の促進に関する法律(通称:サイバーセキュリティ基本法関連法改正)」に基づいて創設された国家資格です。法律によって規定されている点で、単なるスキル認定資格ではなく、国が責任をもって認定・監督する位置付けがなされています。ここが、純粋な民間資格や情報処理技術者試験(従来型の「○○情報技術者」資格)との大きな違いです。
また、安全確保支援士は、名称の独占が法律で認められており、「情報処理安全確保支援士」という呼称を名乗れるのは、所定の試験合格後、登録を行い、維持要件(継続的な研修や届出など)を満たしている者に限られます。弁護士、税理士、公認会計士、社労士、行政書士など、他の士業と同様に、「登録」と「名称独占」が制度上組み込まれていることが、士業としての性格を裏打ちしています。

主な役割

  • リスク管理: サイバー攻撃から組織を守るためのリスク評価と戦略策定。
  • セキュリティ対策の提案・実施: 技術的な防御手段やシステムの構築。
  • 社員教育: 社員のセキュリティ意識を向上させる研修や啓発活動。
  • 法令順守の支援: 個人情報保護法やサイバーセキュリティ基本法に沿った対策を提案。

情報処理安全確保支援士が士業化された理由

士業とは

「士業」(しぎょう)とは、日本において、国家資格によって一定の法律上の権限が付与され、専門的知識や技能を用いて公的な役割を果たす職業一般を指します。特定の「○○士」という呼称を持ち、その名称は法律で独占的に保護されるケースが多く、以下のような特徴を有します。

資格の継続管理や規律維持
多くの士業には、資格取得後の継続的な教育や登録更新、懲戒制度などが設けられています。これにより専門性や信用性が継続的に確保され、必要に応じて不適格者を排除し、社会全体の利益を守る仕組みが機能します。
安全確保支援士も、資格取得後の継続的な教育や登録更新が義務付けられています。具体的には、毎年所定の講習(オンライン講習3回、実践講習または特定講習1回)を受講し、3年ごとに登録更新を行う必要があります。

国家資格・法的根拠
「弁護士」「税理士」「公認会計士」「弁理士」「司法書士」「行政書士」「社会保険労務士」など、いずれも特別な法律に基づき、国が定める試験に合格・登録することで資格を得ます。単なる民間のスキル認定とは異なり、法的な裏付けがある点が特徴です。
安全確保支援士も、「情報処理の促進に関する法律」に基づく国家資格です。

名称独占・業務独占
士業によっては、資格を有する者だけが名乗ることのできる「名称独占」、あるいは一定の業務を独占的に行うことのできる「業務独占」の権限が法的に定められています。このため、士業の名称を無資格で使うことや、特定の業務を無資格で行うことは法律違反となります(例:弁護士でなければ法律事務を扱えない、税理士でなければ有償で税務申告の代理ができない等)。
安全確保支援士は、名称独占の権限が法的に定められていますので、資格を有する者だけが「情報処理安全確保支援士」と名乗ることができます。なおIPAの情報処理安全確保支援士検索サービスで安全確保支援士としての自分のプロフィールを公開可能です。
しかし、安全確保支援士には業務独占の権限は付与されていません。 そもそも情報セキュリティは変化が激しく、一つの資格に業務を限定してしまうと技術革新に対応できなくなる可能性がりますので、この分野の資格に業務独占を与える事は難しいと考えられます。

公共性・社会的信頼性
士業は、個人や企業、社会全体に対して公的な役割を果たします。法的問題の解決、経済・会計面での信頼性確保、権利保護、行政手続の円滑化、労務管理や年金・保険手続のサポートなど、その専門領域において社会的な価値を提供します。
また、士業には職業倫理や守秘義務が課され、顧客や社会からの信頼を維持することが重要視されます。
安全確保支援士においても、サイバーセキュリティの専門家として、個人や企業、社会全体に対して公的な役割を果たします。情報システムの安全確保やセキュリティ対策の助言・指導を通じて、社会の信頼性向上に寄与します。

IT資格中で情報処理安全確保支援士だけが士業化された理由

他の高度な情報処理技術者資格(システム監査技術者、プロジェクトマネージャ、ITストラテジスト等)と異なり、安全確保支援士だけが「士業」となった理由はあるのでしょうか。

この背景には、サイバーセキュリティ分野が国家的戦略課題であり、他分野以上に公的・強制的な枠組みが必要と判断された点が挙げられます。具体的には以下のような考慮があったと推測されます。

  1. サイバーセキュリティの国家的喫緊性・優先度
    サイバー攻撃は国境を越えて行われ、社会基盤、インフラ、経済、安全保障に深刻な影響を及ぼします。特に、インフラ運営企業や行政機関は、サイバーセキュリティの確保なくして事業やサービスの安定運用が困難です。このため、国としては、サイバーセキュリティ領域における専門家を法的に明確化し、国全体のセキュリティ水準を底上げする仕組みを整える必要性が高まっていました。他のIT領域(監査、PM、戦略)の重要性を否定するわけではありませんが、サイバー攻撃が深刻な国益侵害・社会的混乱を引き起こすリスクに直結するため、優先的な法制化対象となったと考えられます。
  2. 既存制度との整合性と政策的タイミング
    情報処理安全確保支援士は、2016年の法改正(情報処理促進法の一部改正)で創設されました。当時、サイバーセキュリティ基本法(2014年制定)の流れもあり、政府はサイバーセキュリティ人材の裾野拡大・質的向上を喫緊の課題として捉えていました。その際、すでに存在していた高度情報処理技術者試験区分に付随的変更を加えるより、国策として重点を置く分野(サイバーセキュリティ)に特化した新たな「士業」的資格を設けることで、より鮮明なメッセージ性と政策効果を狙ったと考えられます。
  3. 信頼性・説明責任の確立
    サイバーセキュリティ対策の不備は、直接的な損害(情報漏えい、サービス停止)だけでなく、社会的信用失墜や国際的な評価悪化にもつながります。このため、専門家に対しては「公的な責任と倫理規範」に基づくプロフェッショナル像が求められました。他の分野でも一定の公共性はありますが、サイバーセキュリティ分野ほど「即時かつ致命的」なリスクが想定される領域は限定的です。政府は、この分野で特に「信頼できるプロ」を公式に定義し、国家として責任をもって育成・監督することで、社会・産業界への明確なメッセージと安心感を提供しようとしたわけです。
  4. 制度コストと優先順位
    名称独占や登録制度、更新制度を全ての高度情報処理技術者資格に拡張するには、相応の行政コスト・監督コスト・制度設計上の手間がかかります。政策的には、緊急かつ優先度の高いサイバーセキュリティ分野に対して先行的に制度化を行うのが合理的と判断された可能性があります。

要約すると、サイバーセキュリティ分野が国益・社会基盤・安全保障に直結する喫緊かつ極めて高い優先度を有し、その対策強化のために国家が法制度的アプローチを取らざるを得なかったという背景が考えられます。他の情報処理資格が公共性を持っていても、サイバーセキュリティ分野ほど法的強制力と士業的制度化が必要なほど差し迫った要請はなかった、という点が分岐点になったと推測されます。


情報処理安全確保支援士の試験概要と勉強方法

情報処理安全確保支援士試験はIPAが主催する情報処理技術者試験です。2016年までは情報セキュリティスペシャリスト試験と呼ばれていましが、2017年からは制度が変更され、情報処理安全確保支援士試験となりましたが、情報処理安全確保支援士の略称「登録セキスぺ」には情報セキュリティスペシャリスト時代の名前が残っています。

受験資格

安全確保支援士試験は、特別な受験要件がないため、誰でも挑戦可能です。この点は、他の士業資格と比べてハードルが低いと言えます。

安全確保支援士試験へのリンク:IPA 独立行政法人 情報処理推進機構

試験構成

  • 午前1試験について試験時間50分。四肢択一式(マークシート使用)で30問出題。
  • 午前2試験について試験時間40分。四肢択一式(マークシート使用)で25問出題。情報セキュリティシステムの開発やセキュリティ管理に関する専門的知識が問われる。
  • 午後試験について午後試験は試験時間150分。記述式で中規模の問題が4問出題され、2問を選択して解答。手書きする機会が減った昨今、手で文字を書く練習はしておくべきだろう。

合格率と難易度

安全確保支援士試験の合格率は15%から20%とされ、相対的に難易度は高めです。特に午後試験では、実務的な対応能力が問われるため、深い知識と理解が必要です。

勉強法の提案

  • 基本書の活用: 情報処理技術者試験向けの参考書を利用します。
  • 過去問演習: 試験形式に慣れるために過去問を徹底的に解きます。
  • セキュリティニュースの確認: 最新の脅威や対策について情報をアップデートします。

筆者の経験としては、参考書は過去問題の勉強時の参考にする使い方で、過去問題をちゃんと5回分程度勉強すれば十分合格できます。過去問題の正解回答を覚えるだけではなく、不正解の選択肢の回答に出てくる単語も勉強する前提ですが。


情報処理安全確保支援士の年収と活躍分野とキャリアパス

情報処理安全確保支援士の働ける分野

安全確保支援士が活躍できる分野は多岐にわたります。

  • IT企業: クラウドサービスやネットワークのセキュリティ強化。
  • 官公庁: 国の重要インフラを守るためのセキュリティ政策。
  • 金融業界: 顧客情報や取引データを保護するための体制構築。
  • 製造業: IoTデバイスや工場システムのセキュリティ。

具体的な業務内容

  • セキュリティコンサルティング: 現状のリスクを評価し、適切な対策を提案。
  • 脆弱性診断: システムのセキュリティホールを洗い出し、改善を支援。
  • インシデント対応: サイバー攻撃が発生した際の迅速な対応と復旧。
  • 教育活動: 従業員向けのトレーニングやワークショップの実施。

情報処理安全確保支援士のキャリアパス

安全確保支援士としての経験を積むことで、さらなるキャリアアップも可能です。例えば、セキュリティエンジニアやシステムアーキテクト、さらにはCISO(最高情報セキュリティ責任者)として組織の中核を担う道が開かれています。

情報処理安全確保支援士の年収は?

安全確保支援士の平均年収は600~1,300万円と言われています。就職活動にも有効な資格です。


情報処理安全確保支援士の認知度

士業との知名度の比較

安全確保支援士は、弁護士や税理士などの他士業と比べると、まだ世間に広く知られていません。なぜこのような認知度の差があるのでしょうか。

知名度が低い主な理由

  1. 歴史が浅い: 安全確保支援士という資格は2016年に創設された、まだ比較的新しい資格です。他の士業、例えば弁護士や税理士といった資格は長い歴史と社会的認知を持っていますが、安全確保支援士は創設からの年数が浅いため、一般社会や企業における認知度が十分に高まっていません。また、新しい資格であるがゆえに、資格の重要性や具体的な業務内容がまだ浸透しておらず、専門性の理解が広がっていない現状があります。
  2. 業務範囲の不明瞭さ: 安全確保支援士は業務独占資格ではありません。このため、資格がなくてもセキュリティに関する業務を行うことが可能です。この点が、資格保有者に対する明確な付加価値の認識を妨げています。例えば、弁護士や税理士のように資格がないと実施できない業務が明確であれば、資格の価値はさらに高まりますが、安全確保支援士の場合、誰でもある程度のセキュリティ対策を提供できる状況があり、その結果として資格自体の需要が限定的になっている可能性があります。
  3. 一般的な認知度の低さ: 情報セキュリティそのものの重要性が一般社会にまだ十分に理解されていないという課題があります。サイバーセキュリティは特定の専門家の問題と見なされることが多く、広く一般的な職業としての認知が進んでいません。また、教育やメディアを通じた普及活動が不足しており、セキュリティの専門家がどのような価値を提供するのかが伝わりにくい現状があります。このように、情報セキュリティ分野への関心がまだ限定的であるため、安全確保支援士の認知向上には更なる啓発が必要です。
  4. 更新制度のハードル: 安全確保支援士の資格を維持するには、継続的な登録と講習の受講が毎年必要です。オンライン講習や実践講習の費用は次のとおりです。
    ・オンライン講習(1年ごと)・・20,000円/1回
    ・実践講習(3年ごと)・・80,000円〜
    この更新制度には費用や時間の負担が伴い、資格保有者にとって一定のハードルとなっています。こうしたハードルは、資格の広がりを制限する要因となり得ますが、一方で継続教育を通じて専門性を高める仕組みとしての重要性もあります。
  5. 資格取得の容易さ: 安全確保支援士試験は、受験資格がなく、誰でも挑戦可能な点が特徴です。この容易さは、多くの人が試験に挑むきっかけとなる一方で、資格のステータス感を薄める要因ともなっています。例えば、弁護士や医師のような試験の受験資格に厳しい条件が設けられている資格に比べて、専門性が相対的に低く見られることがあります。また、資格の保有者が多いことで市場競争が激化し、資格の希少価値が低下する可能性も考えられます。これにより、安全確保支援士が他の士業と比べて認知度や地位を高めるのが難しい現状となっています。

情報処理安全確保支援士に関する政府・企業の取り組み

政府・企業の取り組み

情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)は、サイバーセキュリティ対策を推進する国家資格として、政府および企業での活用が進んでいます。以下、最新の取り組み状況をまとめます。

政府の取り組み

  • 人材育成と資格制度の推進:経済産業省は、サイバー攻撃の増加に対応するため、情報処理安全確保支援士制度を通じて、最新の知識・技能を持つ専門人材の育成と確保を目指しています。 経済産業省
  • 中小企業支援:中小企業庁は、中小企業の情報セキュリティ対策を支援するため、情報処理安全確保支援士などの専門家による普及啓発活動を推進しています。 中小企業庁

企業の取り組み

  • 資格者の活用:企業は、情報処理安全確保支援士の資格者をセキュリティ対策の専門家として活用し、組織内のセキュリティ強化を図っています。 特許庁
  • セキュリティ体制の強化:一部の企業では、情報処理安全確保支援士を中心に、業務執行部門とリスク管理部門の独立したディフェンスライン体制を構築し、高度なリスクマネジメントを実現しています。 経済産業省

情報処理安全確保支援士の未来と展望

安全確保支援士は、情報セキュリティ分野において重要な役割を担う専門職です。他の士業と比べた認知度の低さや資格維持の難しさといった課題はありますが、それを補うだけの需要と将来性があります。この資格を取得することで、広がるキャリアパスや社会的貢献の機会を手に入れることができるでしょう。セキュリティのプロフェッショナルとして、個人や組織、そして社会全体を守る大きな責務とやりがいが待っています。

タイトルとURLをコピーしました