モンティ・ホール問題をベイズの定理で考える:応用方法はあるか?

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モンティ・ホール問題とは?

モンティ・ホール問題は、非常にシンプルながらも人々を混乱させる有名な確率パズルです。この問題は、もともとアメリカのテレビ番組「Let’s Make a Deal」で司会者のモンティ・ホールが出題したことから名付けられ、後に視聴者に大きな衝撃を与えました。なぜなら、多くの人が直感的に理解している「確率」という概念を根底から揺るがすからです。

問題の内容はこうです:

  1. あなたの前に3つのドアがあります
  2. 1つのドアの後ろには高級車があり、残りの2つのドアの後ろにはヤギ(はずれ)がいます
  3. あなたが1つのドアを選んだ後、司会者(モンティ)は残った2つのドアのうち、ヤギがいるドアを1つ開けて見せます
  4. 司会者はあなたに「最初に選んだドアをそのままにするか、それとももう1つの閉じているドアに変更するか」を尋ねます

直感的には「ドアを変えても変えなくても景品を得る確率は1/2ずつではないか?」と思うでしょう。しかし、ここに大きな落とし穴があります。正解は、ドアを変える方が確率が2倍になるのです!

なぜこの問題は直感に反するのか?

モンティ・ホール問題が人々を混乱させる最大の理由は、多くの人が直感的に「ドアを変えても変えなくても、確率は1/2ずつになる」と考えてしまうからです。なぜなら、最終的には2つのドアしか残っていないので、景品がどちらかのドアにあるのは50%ずつに見えるからです。

しかし実際には、ドアを変えるほうが確率が2倍(2/3)になるという驚くべき事実があります。

これは、人間の直感が「新たな状況」をうまく理解できないことに原因があります。人は最初の選択をした後、司会者が1つのドアを開けたという「新しい情報」の重要性を軽視してしまうのです。実は、この新たな情報が非常に重要で、選択肢の確率を劇的に変えています。

モンティ・ホール問題の本質を理解する

モンティ・ホール問題の核心は「条件付き確率」です。条件付き確率とは、「ある条件が満たされた場合に、特定の出来事が起こる確率」を意味します。
モンティ・ホール問題では、「司会者がヤギのドアを1つ開けた後」という新たな条件が提示されます

ここが非常に重要な点です! モンティ・ホール問題の肝は、司会者モンティの行動が単なる偶然ではないことにあります。司会者は必ずヤギのいるドアを開けるのです。司会者は景品のドアを絶対に開けません。そして、司会者はあなたが最初に選んだドアの中身を知っています。この条件があるからこそ、確率が劇的に変化するのです。

このセクションでは、直観的な解法を説明します。その後に数式を用いた解説を行います。

シンプルな「直感的な解法」

ドアを変えるべき理由を、もっとシンプルに考えてみましょう。

初めにドアを選ぶとき、正解のドアを選ぶ確率は1/3です。これは誰もが同意できるでしょう。ということは、最初に選んだドアが外れである確率は2/3になります。

ここで司会者が残りの2つのドアのうち1つを開け、そこにヤギがいることを示します。司会者は必ずヤギのいるドアを開けることを忘れないでください。

もし最初にあなたが選んだドアが外れ(確率2/3)だった場合、司会者が開けなかった残りの1つのドアには必ず景品があります。つまり、ドアを変更することで、2/3の確率で景品を獲得できるのです!

逆に、最初の選択を変えなければ、景品を獲得できる確率は最初と同じ1/3のままです。ドアを変えない場合の当選確率は、最初の選択時の確率から変わらないのです。

ベイズの定理を使った「数学的解法」

モンティ・ホール問題を数学的に検討してみます。先に条件付き確率・ベイズの定理を説明し、最後にモンティ・ホール問題にベイズの定理を適用してみます。

重要な概念「条件付き確率」

モンティ・ホール問題の核心を理解するためには、「条件付き確率」という考え方が非常に重要になります。条件付き確率とは、「ある事象Bが起こった」という前提(条件)の下で、「別の事象Aが起こる確率」 のことです。

日常的な例で考えてみましょう。例えば、「雨が降っている」という条件の下で、「傘を持っている人がいる確率」は、単に「傘を持っている人がいる確率」よりも高くなるでしょう。このように、ある条件が与えられることで、特定の事象の起こりやすさが変わるのが条件付き確率です。

数学的には、事象Aが起こる確率を P(A)、事象Bが起こる確率を P(B) とするとき、事象Bが起こったという条件の下で事象Aが起こる確率 P(A|B) は、以下の式で定義されます。

$$P(A|B) = \frac{P(A, B)}{P(B)}$$

ここで、P(A, B) は事象Aと事象Bが同時に起こる確率を表します。同時確率は上記式を変形して次のようにも表せます。
$$P(A, B)=P(A|B)P(B)= P(B|A)P(A)$$

モンティ・ホール問題に当てはめると、私たちが知りたいのは、「司会者がヤギのドアを開けた(事象G)」という条件の下で、「最初に選んだドアに車がある(事象Car1)」確率 P(Car1|G) と、「もう一つの閉じたドアに車がある(事象Car2)」確率 P(Car2|G) です。司会者の行動という新たな情報が、車のありかの確率にどのような影響を与えるのかを考えることが、この問題を解く鍵となります。

条件付き確率とベイズの定理

条件付き確率の考え方をさらに掘り下げ、それを体系化したベイズの定理を説明します。

ベイズの定理 は、新しい証拠や情報に基づいて、ある事象についての信念(確率)を更新する方法を与えてくれます。事象Aが起こる事前確率 P(A) と、事象Aが起こった場合に事象Bが起こる条件付き確率 P(B|A) が分かっているとき、事象Bが起こったという情報に基づいて事象Aが起こる事後確率 P(A|B) を計算することができます。ベイズの定理は以下の数式で表されます。これは上記の同時確率の式の単なる変形です。

$$P(A|B) = \frac{P(B|A)P(A)}{P(B)}$$

ここで、P(B) は、考えられるすべてのケースにおける事象Bの確率であり、以下のようにも表現できます(全確率の定理)。

$$P(B) = \sum_{i} P(B|A_i)P(A_i)$$

モンティ・ホール問題にベイズの定理を適用することで、司会者がヤギのドアを開けたという新たな情報に基づいて、景品がどのドアにある確率が高くなったのかを数学的に導き出すことができます。

モンティ・ホール問題をベイズの定理で考える

3つのドアをドアA、ドアB、ドアCと名付け、以下のように定義します:

  • ドアA:プレイヤーが最初に選んだドア
  • ドアB:司会者がヤギを見せるために開けたドア
  • ドアC:残った、プレイヤーが選択を変更できるもう一方の閉じたドア

ここで、私たちが知りたいのは、司会者がドアBを開けたという条件の下で、ドアAに景品がある確率 P(A|B’) (B’は「司会者がドアBを開けた」という事象を表します)と、ドアCに景品がある確率 P(C|B’) です。

ベイズの定理を用いると、これらの確率は以下のように計算できます。

まず、各ドアに景品がある事前確率は等しく P(A) = P(B) = P(C) = 1/3 とします (AはドアAに車がある事象、B はドアBに車がある事象、CはドアCに車がある事象を表します)。

次に、各ドアに景品がある場合に、司会者がドアBを開ける条件付き確率を考えます。

  • もしドアAに景品がある場合 (P(B’|A))、司会者は残りの2つのドア(BまたはC)からヤギのいるドアをランダムに開けるので、P(B’|A) = 1/2 となります。
  • もしドアB(景品)に景品がある場合 (P(B’|B))、司会者は景品のドアを開けることはないので、P(B’|B) = 0 となります。
  • もしドアCに景品がある場合 (P(B’|C))、司会者は必ず残りのヤギがいるドアBを開けるので、P(B’|C) = 1 となります。

ベイズの定理を適用すると:

$$P(A|B’) = \frac{P(B’|A)P(A)}{P(B’|A)P(A) + P(B’|B)P(B) + P(B’|C)P(C)}$$

$$P(A|B’) = \frac{(1/2) \times (1/3)}{(1/2) \times (1/3) + 0 \times (1/3) + 1 \times (1/3)} = \frac{1/6}{1/6 + 0 + 1/3} = \frac{1}{3}$$

$$P(C|B’) = \frac{P(B’|C)P(C)}{P(B’|A)P(A) + P(B’|B)P(B) + P(B’|C)P(C)}$$

$$P(C|B’) = \frac{1 \times (1/3)}{(1/2) \times (1/3) + 0 \times (1/3) + 1 \times (1/3)} = \frac{1/3}{1/6 + 0 + 1/3} = \frac{2}{3}$$

この計算結果から、P(A|B’) = 1/3 に対して P(C|B’) = 2/3 となり、司会者がドアBを開けたという情報に基づいて、景品がドアCにある確率がドアAにある確率の2倍になったことが数学的に証明されます。したがって、プレイヤーは最初に選んだドアAから、もう一つの閉じたドアCに変更するべきなのです。

まとめ

モンティ・ホール問題は、人間の直感と実際の確率のギャップを明確に示すパズルです。この問題の数学的解析から、ドアを変えることで勝率が2倍(2/3)になることがベイズの定理によって証明できました。そして、ドアを変えない場合の勝率は依然として最初の選択確率である1/3のままです。

この問題を理解することで、私たちは「新しい情報が与えられたときには、確率も変わる」という重要な教訓を学びます。これがまさにベイズの定理と言えます。

しかしモンティ・ホール問題は、単にベイズの定理が含有されているだけではなく、固有の理解の難しさがありました。この問題を何かに応用できないでしょうか・・?

モンティ・ホール問題の応用方法はある?

残念ながら、現実の世界では、モンティ・ホール問題のような状況は、ほとんど発生しないと思います。この問題では、司会者が車があるドアを知っている上で、それを避けてドアを開けています。このように利得の提供者がプレイヤーにわざわざヒントを与える状況は、ゲームやショーの世界以外では無いでしょう。
モンティ・ホール問題を応用して金儲け出来ないだろうかと考えた方、残念でしたね。でも応用方法を思いついたらこっそり教えてください!
(「新しい情報が与えられたときには、確率も変わる」というだけの状況なら、いくらでもありますけどね。)

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